「炭酸泉とは何だろう」「炭酸ガスは肌に何をするの?」― スーパー銭湯や美容院で炭酸泉の文字を見かけて、そう気になった経験はありませんか。「肌が元気ない」「くすみが目立つ」と感じている方の間でも、炭酸泉への関心は年々高まっています。
炭酸泉とは、炭酸ガス(二酸化炭素)がお湯に溶け込んだ温泉の一種です。温泉法では250ppm以上の炭酸ガスを含むお湯を炭酸泉と定義し、1000ppm以上は「高濃度炭酸泉」に分類されます。ヨーロッパでは古くから「心臓の湯」と呼ばれ、療養目的で利用されてきた歴史があります。
この記事では、1997年頃から約30年にわたって炭酸コスメの研究開発を行ってきた化粧品メーカーの立場から、炭酸泉の定義・効果の仕組みをわかりやすく解説します。さらに、他の記事ではほとんど語られていない「炭酸泉と炭酸化粧品は何が違うのか」というテーマにも踏み込みます。
炭酸泉とは?温泉法の定義と「1000ppm」の意味
お湯に溶けた炭酸ガスが肌になじむ仕組み
炭酸泉の最大の特徴は、お湯の中に炭酸ガス(CO₂)が分子レベルで溶け込んでいることです。ここで大切なのは、目に見える泡ではなく、溶解した炭酸ガスこそが肌に作用するという点です。
私たちは約30年にわたり炭酸ガスの溶解濃度を測定してきました。その経験から言えるのは、「高濃度の炭酸ガスは実はシュワシュワしない」ということです。
1000ppm以上の高濃度であっても、お湯は驚くほど静かです。泡立ちの激しさと濃度の高さは、必ずしも一致しません。
では、溶けた炭酸ガスは体にどう作用するのでしょうか。炭酸ガスは分子量が小さいため皮膚からなじみやすい性質を持っており、炭酸泉に浸かることで血行をサポートする作用が期待されます。
250ppmで炭酸泉、1000ppm以上で「高濃度炭酸泉(療養泉)」
炭酸泉の「濃さ」は、お湯1リットルあたりに溶けている炭酸ガスの量(ppm)で表されます。
偕行会グループの解説によると、「温泉法では、250ppm(お湯1リットルに炭酸ガスが0.25g溶けたもの)が炭酸泉と定義されており、その中でも1,000ppm以上が高濃度炭酸泉とされています」とのことです。
整理すると以下のようになります。
- 250ppm以上:温泉法における「炭酸泉」の基準
- 1000ppm以上:「高濃度炭酸泉(療養泉)」の基準
スーパー銭湯などで「高濃度炭酸泉」と表示されている場合は、この1000ppm以上の基準を満たしたお湯が提供されています。この「1000ppm」という数字は、のちほど炭酸化粧品との関連でも重要な意味を持ちます。
炭酸泉の効果 ― なぜ「心臓の湯」と呼ばれるのか
血行サポート:炭酸ガスが血管を広げる性質
炭酸泉がヨーロッパで「心臓の湯」と呼ばれてきたのは、炭酸ガスが持つ血管拡張の性質に由来します。
前田眞治氏(国際医療福祉大学大学院)の研究によると、炭酸泉は皮膚表面から浸透して毛細血管に達し、血管を拡張させる作用があるとされています。さらに、この血管拡張作用は炭酸ガスの濃度に比例して血流が増大するとのことです。
つまり、通常のお湯による温熱効果に加えて、溶解した炭酸ガスによる血管拡張が重なるため、ぬるめの温度(38〜40℃)でも高い温浴効果が期待できるというわけです。炭酸ガスが皮膚からなじむ仕組みと血行との関係については、科学的に掘り下げた解説もあります。
なお、血流と炭酸の関係については、拙著『素肌力を上げる炭酸美容 美肌は血流がすべて』(白夜書房)でも詳しく解説しています。
美肌効果:弱酸性のお湯が肌を引き締める
炭酸泉のもうひとつの特徴は、お湯が弱酸性(pH4.5前後)になることです。
炭酸ガスが水に溶けると炭酸(H₂CO₃)が生成され、お湯のpHが弱酸性に傾きます。この弱酸性のお湯には、肌を引き締めるアストリンゼント効果があるとされています。健やかな肌の表面はもともと弱酸性に保たれており、炭酸泉のお湯はその環境に近い状態です。
「肌がこわばって硬い感じ」「ファンデーションのノリが悪い」と感じている方にとって、弱酸性の炭酸泉は肌のキメを整える入浴体験になるかもしれません。
頭皮・髪への効果 ― 美容院の炭酸泉シャンプーが人気の理由
近年、美容院で炭酸泉を使ったヘッドスパや炭酸泉シャンプーの人気が高まっています。
頭皮も皮膚の一部ですので、先述の血行サポートの仕組みは頭皮にも当てはまります。加えて、炭酸泉は頭皮や毛髪を清浄にし、古い皮脂汚れをやさしく洗い流しやすくする作用が期待されます。
美容院の炭酸泉シャンプーでは、施術中に炭酸泉を頭皮に流しながらシャンプーを行うため、洗浄と血行サポートの両面からアプローチできるのが特徴です。「スッキリした」という声が多いのは、こうした仕組みが関係していると考えられます。
天然炭酸泉と人工炭酸泉 ― 日本に天然炭酸泉が少ない理由
ヨーロッパで療養に使われてきた歴史
炭酸泉の活用は、ヨーロッパの長い歴史に根ざしています。
ドイツのバードナウハイムをはじめとするヨーロッパの温泉地では、天然の炭酸泉が古くから療養目的で利用されてきました。「心臓の湯」という呼称もドイツが発祥とされており、炭酸泉入浴は医療の一環として位置づけられてきた背景があります。
ヨーロッパには、比較的低温で高濃度の炭酸ガスを含む天然炭酸泉が各地に存在し、その療養文化は現在も続いています。
日本の人工炭酸泉装置が1000ppmを実現するまで
一方、日本では天然の高濃度炭酸泉に出会う機会は非常に限られています。
三菱ケミカルアクア・ソリューションズによると、「炭酸ガスには、高温のお湯に大量に溶けないという性質があることから、泉温が高い日本のような火山活動が活発な国では、高濃度に炭酸ガスを含んだ天然の炭酸泉に出会うことは非常に稀」とのことです。
日本の温泉は火山性のため源泉温度が高く、炭酸ガスは温度が上がるほど抜けやすくなります。大分県の長湯温泉のような一部の例外を除き、天然で1000ppm以上を維持する温泉はごくわずかです。
こうした背景から、日本では人工的に炭酸ガスをお湯に溶かす「人工炭酸泉装置」が開発されました。現在、スーパー銭湯や医療施設で利用されている炭酸泉の多くは、この人工炭酸泉装置によって1000ppm以上の高濃度を実現しています。
炭酸泉と炭酸化粧品は何が違うのか ― 製造メーカーの視点
ここからは、炭酸泉の話を一歩進めて「炭酸泉と炭酸化粧品は何が違うのか」を製造メーカーの視点から考えてみましょう。
共通点:溶解した炭酸ガスが皮膚になじむ原理は同じ
炭酸泉も炭酸化粧品も、根本的な原理は共通しています。それは「溶解した炭酸ガスが皮膚からなじむ」ということです。
炭酸泉の場合はお湯に溶けた炭酸ガスが全身の肌にふれ、炭酸化粧品の場合は化粧液に溶け込んだ炭酸ガスが肌にふれます。いずれも、溶解した状態の炭酸ガスが皮膚に接することで作用が期待される点は同じです。
当社は化粧液に炭酸ガスを高濃度に溶解してから噴射ガスとして閉じ込める独自技術を持っており、炭酸ガス関連の特許を含む計11件の特許(日本・台湾・韓国・中国)を取得しています。温泉法では1000ppm以上が高濃度炭酸泉とされていますが、当社の化粧品はこの高濃度炭酸泉と同等の溶解濃度を実現しています。
広島県立大学との共同研究や、海外の大手化粧品メーカーとの4年間の共同研究実績に基づく知見を、製品づくりに活かしています。
違い①:お湯に浸かるか、肌に塗るか ― 接触面積と密着時間
炭酸泉と炭酸化粧品の直感的な違いは、使い方にあります。
炭酸泉は全身をお湯に浸けるため、広い面積の皮膚に炭酸ガスが接触します。ただし、入浴時間は一般的に15〜30分程度です。
一方、炭酸化粧品は顔や特定の部位に塗布して使います。接触面積は限られますが、塗布後はそのまま肌の上にとどまるため、密着時間は長くなります。
「広い面積×短い時間」の炭酸泉と、「狭い面積×長い密着時間」の炭酸化粧品。目的や生活スタイルに応じた使い分けが考えられます。
違い②:炭酸ガスの「抜けやすさ」と化粧品での安定化技術
炭酸ガスには「時間とともにお湯や水から抜けていく」という性質があります。
三菱ケミカルアクア・ソリューションズによると、「お湯の中の炭酸ガスは1時間に約10%抜けます。加熱したり混ぜたりするとさらに抜けてしまいます」とのことです。
炭酸泉の場合、この抜けやすさがあるため「できるだけ早く入浴する」ことがポイントになります。一方、炭酸化粧品ではこの「抜けやすさ」をいかに克服するかが技術的な課題です。当社では、化粧液に炭酸ガスを高濃度に溶解させた状態で容器に閉じ込め、手に出した時点でも1000ppm以上の溶解濃度を維持する処方設計を目指しています。
炭酸泉の1000ppmは化粧品メーカーにとっても基準になる
温泉法が定める「1000ppm以上=高濃度炭酸泉」という基準は、化粧品の世界でも重要な意味を持ちます。
私たちが炭酸化粧品においても「1000ppm」を溶解濃度の基準としているのは、炭酸泉の研究で蓄積されてきた知見が、この濃度帯を前提としているためです。
なお、炭酸濃度の数値の読み方には注意すべきポイントがあります。高濃度炭酸の濃度表示に潜むカラクリについては、別の記事で詳しく解説していますので、気になる方はあわせてご覧ください。
なお、ここまで炭酸泉と炭酸化粧品の違いをお伝えしてきましたが、「飲む・塗る・浸かる」を含めた炭酸水の美容効果全般を検証した記事もあります。炭酸の活用法を幅広く知りたい方は、そちらも参考になるかもしれません。
炭酸泉についてよくある質問
炭酸泉には何分くらい入ればいいですか?
一般的に、炭酸泉の効果的な入り方としては15〜30分程度の入浴が目安とされています。
炭酸ガスは皮膚からゆっくりとなじんでいくため、通常の温泉よりもやや長めに浸かるのがポイントです。ただし、お湯の温度はぬるめ(38〜40℃)が基本です。
熱いお湯では炭酸ガスが抜けやすくなるうえ、のぼせの原因にもなります。ゆったりとぬるめのお湯に浸かることを意識してみてください。
炭酸泉の泡が体につく人とつかない人がいるのはなぜ?
炭酸泉に浸かると、肌の表面に細かい気泡がつくことがあります。これは、お湯に溶けていた炭酸ガスが皮膚の表面で気体に戻る現象です。
泡のつき方には個人差があり、肌の表面温度や皮脂量、角質の状態などによって変わるとされています。なお、先述のとおり効果に関わるのは「溶解した炭酸ガス」ですので、泡がつかないからといって炭酸ガスの作用がないわけではありません。
炭酸泉に毎日入っても大丈夫ですか?
炭酸泉は通常のお湯と同様に、日常的な入浴に利用されています。
ヨーロッパの療養施設では、炭酸泉入浴を一定期間継続して行うプログラムが組まれているケースもあります。ただし、持病のある方や体調に不安のある方は、事前に医師にご相談ください。
美容院の炭酸泉とスーパー銭湯の炭酸泉は同じものですか?
「炭酸ガスが溶けた水(お湯)」という原理は共通していますが、使い方と目的が異なります。
スーパー銭湯の炭酸泉は全身浴を目的としており、大きな浴槽にお湯を満たして使います。一方、美容院の炭酸泉は頭皮や髪に直接シャワーで当てるかたちが多く、頭皮の洗浄やケアが主な目的です。溶解している炭酸ガスの濃度は施設や設備によって異なりますので、気になる場合は各施設に確認してみるとよいでしょう。
まとめ ― 炭酸泉の原理を知れば、日々のスキンケアにも活かせる
炭酸泉とは、炭酸ガスが溶け込んだお湯のことであり、温泉法では250ppm以上を炭酸泉、1000ppm以上を高濃度炭酸泉と定義しています。炭酸泉の研究では、溶解した炭酸ガスが皮膚からなじみ、血行をサポートする仕組みが報告されています。
この「溶解した炭酸ガスが肌になじむ」という原理は、炭酸泉(温泉)に限った話ではありません。炭酸化粧品でも、化粧液に高濃度の炭酸ガスを溶かし込むことで、同じ原理を日々のスキンケアに取り入れることができます。
ある50代の女性は、季節の変わり目に肌のゆらぎに悩んでいたそうです。炭酸化粧品を日々のケアに取り入れたところ、ご本人によると、洗顔後のつっぱりが気にならなくなったように感じ、肌にうるおいやハリを感じるようになったとのことです。「もっと早くから使い始めていればよかった」とも話されていました。
※個人の感想であり、効果を保証するものではありません。すべての方に同じ実感が得られるわけではありません。
「何十年も化粧品を使うのに、高価で効果もわからないものを使うのは嫌だった」という声をいただくこともあります。当社のfromCO2はシンプルケアに特化した処方設計を行っています。過度な成分を重ね塗りするのではなく、炭酸ガスの性質を活かして肌をすこやかに保つというシンプルな考え方です。
日本化粧品工業会、化粧品公正取引協議会に加盟する正規メーカーとして、約30年の研究を製品づくりに活かしています。
炭酸泉で「肌の調子が整った気がする」と感じたことがある方は、「シンプルなケアでありながら、肌をすこやかに保ってくれる」炭酸化粧品を、毎日のスキンケアに取り入れてみてはいかがでしょうか。

